育児と会社
今、会社で、はやっていることがある。
それはなんと。。。子供を産むこと w(@。@;)w
妊娠し、育児休暇を取り、出産し、全部で1年半くらい休んでから復職するということである。欧州ではごく一般的であり、日本のように妊娠したからといって辞める人など、ほとんどいない。
それにしても。。。女性社員が5人しかいないのに、しかも事業開始から1年半しかたってないのに、既に2人も対象者が出ているというのは、ドイツ人に聞いても、
「かなりヒット率が高い」
と、驚かれる (^◇^ ;)
最初の一人は既に出産し、生後8ヶ月の赤ちゃんを連れて会社にやってきて、みんなでケーキを囲んでささやかにお祝いした。もう一人は3月から産休予定だ。
もちろん、おめでたいことだから祝福したい。でも、中小会社の経営にとっては、当然痛い。
人の採用には時間がかかり、人材会社等の費用もかかる。さらには、かれらに仕事を割り振り、教え、仕事に慣れてきて、業務が流れるようになってきた7~8ヶ月後に「カミングアウト」されると、もう言葉を失ってしまう。
意外とやっかいなのは、社員の地位のまま1年半会社を離れるという事実だ。
その間、社員なのだから、給料も源泉税や社会保険料も払い続けなければならない。保険会社が補填してくれるが、会社の社員名簿や給与台帳にも載ったままであり、事務負担は残る。
そして、彼らが戻りたいときに(=戻れるときに)同条件で復職する権利が、法律で保証されている。だから、その予想される欠勤期間は、誰か他の人を期限付で採用するしかない。しかし、期限付だと、よい人材が見つかりにくく、またまた引き継ぐことになるので、仕事の効率は確実に落ちる。
さらには、大半の人は、復職後はパートタイム勤務を希望する。これを受け入れなければならず、そうすると週に3日とか、毎日午後3時までとか、すごく中途半端になってしまい、正直まともに責任を持って仕事ができる体制とは言いがたくなる。そうすると、別な人をさらにパートタイムで採用する必要が出てきて、ますます混乱する。
ちょっときつい言い方だけど、パートタイムというのは、「会社から見ると」本当に非効率だ。週40時間を1人でこなす代わりに、2人採用して週20時間とし給料を半分ずつにした場合、100だった業務効率は合計でも70~80くらいになる。1足す1は2じゃなくて、1.7くらいだ。2人の間でコミュニケーションする時間、2人が毎日通勤する時間、2人に業務を教える時間、2人の休暇を調整する時間、2人分の給与計算に要する時間、2人分の席。。。数え切れない。
まあ、若い女性!?ばかり採用してきたのが悪いんだと言われたら、何も反論できないんだけど、まさかこんな状況になるとは。。。 (^-^;
ドイツでは産休中の給料は、最後の給料の70%くらいもらえる制度らしい。だから、カミングアウト時にそれなりの給料を出す会社に在籍しているかどうかが経済的に最重要なことなのだ。
ぶっちゃけ、子供を作りたいと思ったら、まずは就職する、ないし、より給料の高い会社に転職するのが断然有利だってこと。会社という箱を、うまく利用するのだ。
採用時に、妊娠しているかという質問をすることは禁じられているし、妊娠を「準備中」であるかどうかなんて、本人たち以外に絶対わからない。ドイツでは子供を作るのに結婚の有無も関係ない。さらには、カミングアウト以降に解雇することは、どんな理由でも違法となる。
従業員への保護は非常に厚く、会社側がノーガードでリスクを負う形になっているってわけ。
俺もいろいろ考えたんだけど、やっぱりこの状況は苦しいし、アンフェアだ。
子供を作ることが喜びであり社会から経済的・精神的サポートが得られる世の中にしなければいけない、ってことについては全面的に賛成だ。会社だって、社会の構成員なんだから、当然、一翼を担うべきだろう。子供を作っても働き続けたい、という希望も理解できるし、それができる環境であるべきだ。
問題は、その働き続ける「形態」についての考え方や縛りが、旧態依然として非常に硬直的で、しかもその議論がタブー視されていることだ。
ドイツ人は日本以上に起業意識の低い国民性で、低リスク中リターンの従業員形態が大好きだ。従業員は法律で硬く保護され、労働裁判をすればほとんど従業員側の勝利に終わる。この従業員保護の規程を、「働く女性の権利拡大」に合わせて法制化すると、今のような理不尽な結末になる。この手厚い保護が、リスクを取ってまで起業する気を失わせる一因になる。会社経営者としても、正規従業員に「年頃の女性」を雇用する意欲が減退する。
これは、正しい方向ではないだろう。
世の中、生き方が多様化してきているのだから、妊娠中や出産後についても、別に従業員じゃなくて、フリーランス(プロジェクトごとの契約形態)でも仕事ができるように、なぜできないのか。それなら、1人が複数の会社と契約しても構わないし、会社に毎日いる必要もない。解雇するとかされるとかの問題も、そもそも生じない。社会保険料も安く上がる。
そもそも従業員という、収入は安定しても運用が硬直した制度は、例外があるにせよ、定時から定時まで会社内で「拘束する」ことを大前提にしている。だから、仕事内容によっては、出産・育児といったニーズには必ずしも適していないと思う。
従業員だからと言って、絶対に一生安泰という時代じゃない。大会社の製造ラインみたいな究極的に保護されてる場所では、数年間のTarifvertrag(賃金協定)があるのが普通だが、それでも事業ごと外国の会社に売りに出されれば、最後の抵抗をしたあと、みじめに解雇されていく。そんな時に得するのは、最後まで解雇反対に座り込んだ人じゃなくて、何か他社でも使えるスキルのある人だ。世の中のゲームのルールは、とっくに変わっているのだ。
本当に子供に優しい社会を作りたかったら、「今の世の中を前提に」、子供を作りたい女性を擁護するべきだ。それは、その時偶然に在籍している会社で従業員の地位を保護することではなくて、会社にとらわれず、一生かけて「使える」経験とキャリアを柔軟に吸収できるような仕組みだろう。
ドイツ人は、自国に「法律」と「安定的な制度」があれば何でも機能すると思っている人が多いけど、もう実際はそうはいかない。
いつか、わかってくれれば。。。と願う。
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