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未来の短い物語

Cimg5168 最近、衝撃的な本を読んだ。

タイトルは Une breve histoire de l'avenir (未来の短い物語)。今から2025年と2050年までの世界を描いたものだ。歴史と現状を詳細かつ緻密に分析したもので、SFなんかじゃない。

著者のジャック・アタリは、経済学者・思想家で、フランス大統領の補佐官を10年も務め、ついで欧州復興銀行の初代総裁になったという大物。著作には日本語に訳されているものもあるようだ(この本はない)。

先日パリに行った時、カルティエ・ラタンの書店で目に入り、裏表紙を読んだだけで即買いし、400ページ以上を夢中で夜な夜な読んだのだ (^^;;)

彼は、人類が古代からたどってきた歴史のベクトルは一貫して、より多くの「個人の自由」を勝ち取る方向に向かってきたのだという。

部族長や王様にしか人権がなかった時代から、個人が尊重され大切にされ、生き様や生きる場所を自由に選べる時代に。それ自体は良いことに見えるけど、この傾向はどんどん、とてつもなく加速されている。

彼の予想では、今後20年間で人類の生き方は激変する。テクノロジーの発達で、一つの携帯端末で、世界中の情報に自由に即座につながるようになる。本を読む、音楽を聴く、仕事をする、エンターテインメントを楽しむ、といった行為の境目も薄れていき、どこにいても誰でも何でもしたいことがバーチャルでできるようになる。

加速する資本主義の中で、政府や国の権威・役割は崩れ、市場のコントロール機能も失っていく。その中で、あらゆるリスクを保障する保険会社が一大勢力となり、政府の代わりに、カネ(=保険料)の力で人々や会社に自律を強いるようになっていく。

そのうち、その「自律」は自分で管理・コントロールせよということになる。体調や行動や経済状況などが「標準」からずれて「リスクが高い」かどうかを、携帯端末でチェックすることを誰もが強制され、数値はもちろん自動で保険会社のデータベースに飛んでいく。やがて、「標準」からのずれを「矯正する」小型マシンが開発され、そこから体になんらかの化学的、電気的、ないし生物的な注入がされる。そのマシンの携行も強制される。大病のとき以外、医者に行くこともなくなる。

そして、個人の「自由」はあっても「プライバシー」はなくなる。ほとんど全てが民間の手に移る世界で、誰のどんな情報でもカネを出せば手に入り、保険会社も当然に手に入れる。誰でも誰のどんなことでも知れるようになる。

人は、自分ひとりだけで全てが完結する、「究極の自由」を手に入れて自己中心的になり、一方では孤独に悩んでいく。その「孤独」をターゲットとして、ハイテクを駆使した娯楽産業が巨大化していく。そのうち、人間も商品のような存在になっていく

水や食料やエネルギーは不足し、各地で紛争が勃発する。地球温暖化と環境破壊は、各地に壊滅的な被害をもたらし、地球上に残った、まだ「呼吸できる」「耕せる」土地を求めて、人口の大移動が起こる。そのうち、さまざまな対立が対立を相乗効果で呼び、秩序はなくなり、大紛争(Hyperconflit)の時代に。。。

なんとも恐ろしい将来像だ。でも、今世界中で起きているさまざまな事象・事件を考えると、著者が描く未来像に向かって、人類がまっしぐらに突き進んでいると納得せざるをえない。

でも、一番衝撃的なのは、「本当になくなっていくのは、時間だ」という指摘だった。

ますます便利になり、家事や仕事に費やす時間が今より減っても、ユビキタスで効率的な世界で提供される情報量は2030年には72日間で倍々のペースで増える。

世の中に「追いついていく」ための情報取り込みに必要な時間はどんどん増加し、人は限られた24時間の中で消化していけなくなり、そのうち何にも集中できなくなる

時間だけは売り買いできないし、人間だから、寝る時間や愛する時間も必要だ。

「時間がない」というこの究極の事実は、やがて人々の巨大なストレスとなる。人類が夢にまで見てやっと実現した個人の自由は、時間の奴隷という前提化での幻想であったことに気付かされる日がやってくるのだ。「時間がない苦悩」をテーマにした芸術作品がはやるという。。。

確かに、よく、現代人には時間がないという。でも、そうなっていくメカニズムが初めてわかった時は、その箇所を5回も読み直したくらいに心底衝撃を受けた。

彼も言うように、この「大紛争」時代をへて人々が行き過ぎを反省したあとでは、お互いがお互いを尊重し、相手を喜ばせることが自分の喜びにつながるような真のバランスのとれた世界が実現するのだろう。もしその時、世界にまだ再生の余地があるならば。。。

それまでは、変化がどんどん加速化し不安定化する世の中で、絶えず大きい視点から世界の動きを捉え続け、かつ自分の位置を確認し続けて、バランスを失わないように生きていくしかないのだろう。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

面白い本を読まれましたね。

時間がなくなっていく話を読んで、ミヒャエル・エンデの「モモ」を思い出しました。時間泥棒の話、すでに読まれましたか。科学技術のおかげで世の中ますます便利になってきているけれども、その利便性と引き換えに私たち人間は本当に大切なものをどんどんと失っている…もっと危惧すべきは、自分達がそういう危機的状況にあるということを大部分の人が気づいていないということか。

とても有名な童話で、私が読んだのは小学生時代だけれども、少しは人生の酸いも甘いも味わったこの齢になって読み返せばまた別の視点で興味深く読めるだろうな。こんどう先生も時間があれば、ぜひ。

あと、エンデに関して「エンデの警告」という本があります。自己倍増していく「マネー」という実存のない虚構経済に対し常に警告を発していたエンデの思想がNHKドキュメンタリー取材班によって1冊の本に纏められたもの。こちらもお勧めでーす。

追伸:「エンデの警告」ではなくて「エンデの遺言」でした。Trier産の美味しいワインを飲みながら半分酔っ払った状態で書いていたので気になって投稿したコメント読み返してみたら、やっぱり間違っていた。

あと、マネーは倍増どころか、累乗的に増えていってるから「自己増殖」という表現の方が適当kだね。ま、酔っ払いのたわごとということで…。

ルクセンブルクに移動するつもりが、Trierが結構気に入ってしまって、結局ここで3日過ごすことになりそうです。明日、日帰りでLuxembourgにも足を延ばすつもりだけれど。

面白そうな本を読んだね、というか、忙しいのにそうやって本を読める体力と好奇心は素晴らしいね。今度会ったときもっと詳しく教えてください。

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