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マイクロファイナンスの方向性

ドイツで過ごす最後の年末。この多忙な時期に、またロンドンに日帰りで出張する機会があった。

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Londonbusiness3そのときランチに行った相手先の一人であるアメリカ人男性L君(まだ28歳)とは数々のディールを一緒に手がけてきたこともあり、すでに友人的な域に達してきた

そのL君、もうすぐその金融機関を退社してインドに向かうのだと言う。

目的は… マイクロ・ファイナンス(マイクロ・クレジットとも言う)に参画すること。そう、よく新聞などにも最近載っている、インドやバングラデシュで脚光を浴びているビジネスだ。

アメリカから冒険を求めてロンドンに渡ってきたというL君。ニューヨークでの学生時代は書類配達のバイトをやっていたという。荷物や書類を持って摩天楼の投資銀行を回っているとき、

「書類を受け取るときに彼らと言葉を交わすことがあったけど、そのとき、カウンターの向こうに座っている彼らは自分と全く同じ人間であり、必ず自分も同じことができるはずと確信した。」

という。強く信じれば実現できるとはこのことだろう。

ロンドンでも投資銀行に転職したが、サブプライム危機で証券化市場が機能停止してから半年くらい、「(業務がないので)アフリカ人の30倍の給料をもらいながら、みんなが一日中会社でネットやっている自堕落な事実に我慢ができなくなった」という。

L君いわく、

「僕はまだ若いし、もっといろんな経験をしたい。インドのことは全くわからないけど、必ず大きな人生経験になるだろうし、ファイナンスの知識を世のために生かせる数少ない機会だから。ただ、ブームになってきて、みんながマイクロファイナンスのことを語りだしているのが心配だ。」

マイクロファイナンスでは、女性を中心とした数人の事業グループに立ち上げ資金や運転資金として少額を無担保で貸し出すものが多いと聞く。一度の貸出額は数百ドル程度。

インド社会の中で彼らのような「高所得者ではないがやる気がある」人たちを対象としたファイナンスが以前なかったこと、インドの国民性を反映してか返済率が非常に高いことから利益も確保できること、さらには社会の役に立ちそうな感じもすることから、世界中から若者、特にファイナンスの経験のある有志の参画が相次いでいるらしい(これ以上のことは実体験がないので俺も知らない)。

…というのが本来の筋書きであったはずだが…

ご多分に漏れず、「カネがカネを呼ぶ」話を嗅ぎ付けると必ずハゲタカが寄って来るのが常だ。有志が集まるよりカネが集まるほうがずっと速いから。

あれよあれよという間に、マイクロ・ファイナンスは欧米大手投資銀行のほとんどが傘下のファンドなどで投資する対象になってしまっている。

次に起こるのは、投資対象と投資手法の画一化、リターンの最大化と平準化、そして商品化である。

インドの末端の、やる気で目を輝かせている(と思われる)女性企業家は「投資対象商品」になり、最初は善意の心でお金を貸していたはずのファイナンサーは投資家への資産をお預かりしてリターンを最大化する「ファンドマネージャー」となり、返済日に感謝の気持ちで持ってきたお金を温かいまなざしで受け取っていた日々は「債務不履行におびえる」性悪説の冷たい権利義務関係にすり替えられるのだろう。

そして、数知れない前例と同じく、「競争原理」から発してブームになり、やがてバブルになり、はじけて、カネがマーケットから一斉に引くと思われる。カネが猛威を奮って爪あとを残すわけだ。

タイミングをつかんでマーケットに入り、バブルがはじける前にうまく売り抜けた人だけが得をし、あとの人は損して終わる。それはマーケット原理だから結構だ。でも問題は「投資対象」の、決して生活が楽ではないインドの女性達にもつらい思いをさせるのが確実ということだ。ブームには見境もなくカネを貸し込まれ、ブームがはじけると厳しい取立てが始まるだろうから…

人間誰でも欲があり、一方で善意の心もある。地域社会、国家、世の中全体という単位でも同じことで、欲と善意が日々闘っている気がする。世界に膨張したカネカネの正体は現代風に言うと「レバレッジ」であり、善にも悪にもなるはずだ。

今は欲の拡大に偏向しているように思われるカネの動き。これが世の中全体の雰囲気の足を引っ張り、正直に生きる多くの人の心を暗くしているように思えてならない。

本来素晴らしい行為であるはずのマイクロ・ファイナンスを通して、カネが少しでも善の心に流れるように、L君にぜひ頑張ってもらいたいものだ。

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