ポーランドを救った放射能対策
今また出張でポーランドに来ている。
もはや気心知れた仲であるポーランド拠点のトップA氏(50歳)と2人だけで夕食を共にする機会があったので、前から気になっていた話題を出してみた。それは、チェルノブイリ事故の対策についてだ。
25年前ソ連でチェルノブイリ事故が発生したことをポーランド政府が知ったのは、スウェーデンで高い放射線が計測された時のことだった。事故から既に3日間が経過していた。
事故を知ったポーランド政府はすぐに非常事態体制を敷き、1000万人の子供の9割にヨード錠剤を配って服用させた。事故から5日目のことだ。
また、国内の牛乳の出荷を直ちに禁止し、輸入粉ミルクに切り替えた。
その結果ポーランドでは、大きな被害の出たウクライナやベラルーシと対極的に、子供の甲状腺ガンの発生が非常に少なかったという。
ヨード錠剤は甲状腺に限度いっぱいまで通常ヨードを吸収させる働きがあるので、あとから放射性ヨードが入ってきても甲状腺への吸収されることはない。子供や妊婦は放射線に敏感でどんどん体内に蓄積されていくので、もはや時間との競争であり、とにかく事故発生から早いうちににヨード剤を摂取することが重要であるという。
A氏はチェルノブイリの事故があったとき、初の子供が生まれる直前であった。妊娠中のA氏の奥さんも、配られたヨード剤を服用したという。
不幸中の幸いだったのは、奥さんが妊娠の本当の後期であり、子供への副作用があまりないと考えられたこと。妊娠中で安定期前の方は、かなりの副作用を覚悟で服用ことになったのだろうと思うと、胸が痛む。
チェルノブイリからポーランド国境までは500キロあり、俺の出張先のブロツワフまでなら1000キロ離れている。しかもこのとき、ポーランドは共産主義体制の末期であり、国も貧しく政情も混乱していた。
それにもかかわらず最悪の事態を最初から想定し、直ちにヨード剤を配布するなどして国難を無事回避したポーランド政府の英断には、頭の下がる思いである。
政府批判が大好きで基本的に皮肉屋さんのポーランド人でも、この政府の決断には感謝していることが、A氏の話し振りからも淡々と伝わってくる。
ちなみに、ポーランドの野生キノコに今含まれる放射線量は、今から2週間前(つまり3月末)の福島周辺の値に比べても4倍ほど高いのだという。
放射線は土壌に”吸収して蓄積される”ものだからデータは不思議でないにせよ、放射能汚染の長期的影響というのが如何に大きいものかがよくわかる。
関東地域の放射線量は約1週間前からかなりの増大傾向にあるので、増加し続ける放射線をドンドン吸収している今改めて日本のデータを取ったら、ポーランドのキノコ以上の数値になっている可能性が高い。しかも福島原発の放射能放出は全く止まる兆しはなく逆に悪化しつつあるようなので、放射能が出続ける今後数ヶ月~1年程度でどこまで”蓄積”されるかを考えると、末恐ろしいものがある。
チェルノブイリと福島は同レベルの事故で、東京は福島からたった250キロという至近距離。放射能はまだ全体の10%も放出されていないし、ドンドン拡大進行中。それなのに、東京以北に住む子供の大半がまだヨード剤すら服用していない、それどころか服用が必要という意識すらないということを考えると、将来相当に悲惨な事態になるであろうことが想像できる。
ベラルーシ・ウクライナの甲状腺ガンは多く、これまでに発病で亡くなった人も100万人近くいると言われる。日本の高い人口密度を考えると、東北・関東の放射能による今後20年以内の犠牲者も、恐らくこれ以上の人数にはなるのだろう。
福島原発事故の対策には残念ながら若干時遅しの感があるけれど、このポーランドの”成功体験”をきちんと把握して物心面の備えをしておくことは、今後の原発災害の際にきっと役に立つだろうと思う。
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コメント
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保安院が今回の事故レベルを7としましたが、実際の放出量は積算でチェルノブイリの10%未満であり、偏西風の影響でさらのそのうちの90%は太平洋側に拡散したというのが真相みたいです。
(つまり日本国土に積もった死の灰はチェルノブイリの1%未満)
南関東の水道水は一時200~300Bg/Lに汚染されましたが、現在は数ベクレル~1未満となっています。
福島県と茨城県の一部以外は現在の空間線量は事故前と全く変わりませんが、降雨などで地面に降り積もった放射性物質の問題があり、これがこの後下水道などにん流れて減少していくという説と土壌汚染が発生するという説があります。
いろいろな情報が錯綜しており、真贋見分けるのは困難ですが、私はこのあと数ヶ月で核燃料の冷却が一段落し、燃料を取り出すなりそのままで石棺方式で数十年封鎖、周りの汚染地域は管理区域に指定して最終的には収束するとみています。
投稿: 平成の江戸っ子 | 2011年4月16日 (土) 08時38分
私もちゃんと収束すると思っているよ(願っているよ)
まだ見通しが立たないところが不安だけど、放射線放出量はまったくレベルが違うよ。
用心に越した事はないけど騒ぎすぎだよ。
東京にいて放射線心配するならタバコの喫煙者を減らしたほうが癌の発病が将来的に減ると思うよ
投稿: poreco | 2011年4月20日 (水) 08時55分
福島原発の収束の見通しは現在、全く立っていません。
政府の予定表では6ヶ月から9ヶ月で収束としていますが、建屋内の汚染水の移送が困難であり、まともに作業が出来るのは6月からだそうです。
つまり二ヶ月は何も出来ないのです。
汚染水一つで手間取っている上に、仮に除去しても放射線量が下がらないと炉心に近づく事すら出来ません。
陸地こそまだ安全ですが、海へ放出された放射性物質は膨大で、既に深刻な海洋汚染が起きていても可笑しくありません。
このまま膠着すれば何が起きるのか?日本の気候を思い出してください。梅雨と台風が待っています。
大気中には放射性物質が漂っています、それが雨と共に地表に落ちてきて土壌を汚染しています。
台風によって汚染された海水が巻き上げられ、陸地に降り注ぐ危険性もあります。
陸地の汚染は着実に進行中であり、各地の土壌汚染は少しずつ広がっていっています。
皆さんはヨウ素を重視していますが、土壌汚染では気にすべきはセシウムです。
セシウムの半減期は30年、ヨウ素の8日とは桁が違います。
それらに汚染された野菜や水を食す事で体内被曝も起こしかねません。
何が安全か、良く考えて行動してください。
これは命と健康に関わります。
投稿: | 2011年4月22日 (金) 11時09分
菅直人は首相を辞任すべきである。平時でもダメな政治家であったが、乱世でもダメな政治家であることが明白になった。
この乱世を、我欲を捨てて、国民の生活が第1という、選挙民との契約を実行する政治家は、現在の日本にはふたりしかいない。小沢一郎と亀井静香である。このふたりに後は任せて、菅直人は政界から引退すべきである。菅直人が首相の座に1秒しがみつけば、それだけ日本の滅びは深まる。
http://m-hyodo.cocolog-nifty.com/
投稿: 兵頭正俊 | 2011年5月28日 (土) 11時58分
京大の小出助教が話されていました。福島の事故は範囲ではチェルノブイリの1/8だが人口密度が福島の方がはるかに高いので被害はチェルノブイリを越えると話されていました。それに、チェルノブイリ事故は9日?で終息できたが、福島は今もで続けているとはなされていました。被害はチェルノブイリを越えるとのことです。もうすでに甲状腺にしこりがある人がたくさんみつかっています。けっして 事故の7の数字はまちがいではありません。そして、汚染水が海や地下に垂れ流されています。
投稿: たんばみき | 2012年3月27日 (火) 11時05分