スイス事業の悩み
最近よくスイス事業に関わることがあるが、この国でのビジネスを成功させるのは簡単なことではないと感じる。
スイスは人口800万人の小国であり、スイス人の3人に2人はドイツ語を母語としている。そのため、世界展開している中規模の会社でスイス独自の販売会社を持たない場合には、ドイツ・オーストリア・スイスの3カ国を”ドイツ語圏”として、ひとつの販売組織で一体管理する場合が多い。
ということは、この3カ国には同じ営業戦略が適用されてしまう。ドイツ本部の営業会議にはスイス人の営業マンも出席するが、ドイツ本国から見ると少人数であるために、彼らの声が営業決定に反映されることは少ない。
実は、オーストリアの場合はこのように経営してもそれなりにうまくいく。オーストリアは100%ドイツ語であり、またEU加盟国であり、通貨も同じユーロであり、ドイツとのメンタリティー的なギャップも少ないからだ。
しかしスイスの場合はこうはいかない。一体経営すると、いろいろと問題が発生してくる。理由は簡単に言うと、いろいろな意味でスイスの独自性が高いからである。
制度的な観点から見ると、まずスイスはEUに加盟していない。ドイツなどEU加盟国から製品を出荷すると、通関業務が必要になる。通関手続は煩雑なペーパーワークであり、これを業者に依頼するのであるが、費用も時間もかかる。だから、通関回数をなるべく減らすことが重要になる。そのためには、できればスイス国内に保管拠点があった方がいいのだが、それはイコールコスト増にもなる。
また、スイスは通貨も異なる。スイスフランとユーロは国際的に両方ともメジャーな通貨であり、有事の際にはスイスフランが高くなるなど、変動も大きい。スイス顧客からの売掛金の取立ては、当然スイスフランが使われるので、ユーロとの為替変動を覚悟しなくてはならない。
言語的に見ると、スイスには4つの公用語があるが、ビジネス的に重要なのはドイツ語とフランス語だ。しかしこれがまた厄介である。
”ドイツ語”は人口の3分の2を占めるのであるが、ドイツと同じなのは書き言葉だけであり、話し言葉はまるで違っている。ドイツ人でも、地元のスイス人の会話は半分も理解できないのが通例である。俺なんか、彼らが何を言っているのかほとんど聞き取れない。
フランス語の方は書き言葉・発音とも標準的なものに近く、フランス人との意思疎通に全く問題はない。
スイス人は自分の文化へのこだわりが強いので、自分たちの言語でサービスを受ける権利があると思っている。スイスの平均国民所得は世界でもトップクラスであることから、周辺国に比べ、価格よりクオリティーに重きを置く傾向があるので、なおさらだ。
ということは、顧客対応のカスタマーセンターなども、ドイツ人では対応できない。スイスだけのために、スイスドイツ語を話す担当者と、フランス語を話す担当者を配置する必要があるのだ。
スイスドイツ語が話せる人というのは必然的にスイス人になるから、人件費もドイツより高くなってしまう。でも、そうしないと顧客が言っていることがきちんと理解できないということになり、商売の根幹が揺るいでしまう。
また、ドイツ傘下の組織であるからといってフランス語での対応がきちんとできないと、顧客が徐々に離れ、フランス子会社や他の競合に流れていってしまうのだ。
最も、フランス語の書き言葉の方は、それほど厳密でなくてもいいようだ。
うちの会社でも、フランス語がネイティブでない社員が、文法的には間違いだらけのかなりいい加減なフランス語で注文メールをやり取りしており、正直会社としても恥ずかしく感じるが、フランス語らしく見える限り、顧客は特にクレームはつけないようである。
しかしスイス顧客は価格値引要求も少ないので利幅は大きい。しかも、いったん注文を受けると簡単に他社に流れていくこともなく、定着率もいいという、優良顧客だ。
スイスという独自の魅力的な高所得のしかし小さな市場で、質とボリュームという相容れない目標をどう達成するか、これからも悩みがつきることはないだろう。
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