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ドイツで出産する(2): 妊娠~出産前時期

妊娠中はドイツでも日本など各国と同様に、妊婦は産婦人科で定期健診を受ける。定期健診は最初は月に一度程度であるが、最後の2ヶ月間は週に一度、そして予定日を過ぎると2日に一度になる。

産婦人科は原則個人開業の医者であり、住宅地の2階部分などに居を構えていることが多い。歯医者や目医者や内科などに比べると、一般的に来客(患者!?)数も多く、なかなか忙しそうである。

一箇所当たりの規模は小さいので、個人的なケアを受けられること、アポさえ入れておけば待ち時間がかなり少ないことは、大きなメリットである。

忙しいからといっても、診察室に入ってドアを閉めると医者の態度は誠にプロフェッショナルであり、妊婦さんのメンタルにもちゃんと立ち入って、ゆっくりと話を聞いて丁寧に診察を行い、また、相談に乗ってくれるので、とても安心できる。また、ほとんどの医者は英語が堪能である。

産婦人科を夫婦でやっている人もいる。Aちゃんが通っていた産婦人科は夫婦経営であり、夫婦ともに産婦人科医で、どちらかを指定したいときには 受付で”Mr. xx ” ”Mrs. xx”と呼んで区別していた。

夫婦なので当然休暇も同時に取るが、長期間クリニックを開けるわけにもいかないので、4週間の休暇の最初の1週間は夫だけ、最後の1週間は妻だけとし、コアの2週間だけクリニックがお休みになるように、ちゃんとスケジュールしていた。

ちなみに、男性の産婦人科医にかかるのを恥ずかしいと思う女性もいるようであるが、Aちゃんは、「男性の方が、自分の経験できることでないので、もっと丁寧にやってくれる」という意見。確かに俺が何件かの産婦人科医で見た印象でも、男性のほうが対応やタッチが丁寧なことが多いように見える。

ドイツでは薬を出す場所は薬局であり、それはクリニックとは全く別の場所・組織であるため、医者に行くと薬を出されてしまうということはない。薬は処方箋をもらって自分で薬局に行って買うものであり、その領収書を保険会社に回せば全額戻ってくるので、実質的な負担はない。

面白いのは、検査に使う薬も妊婦さんが自分で事前に買って産婦人科に持参しなくてはならないことだ。事前に処方箋をもらい、それを提示して薬局で買って持ってくる。クリニック内にストックはない。

ところで、ドイツでは産婦人科と生む場所は別々の場所にある。

”生む場所”というのは、施設の整った病院であり、ハイデルベルク市内に4箇所しかない。そのうちどこがいいのかは、個人で判断することになる。

俺たちは、ハイデルベルク大学付属病院とカトリック系の病院を訪れて案内してもらい、総合判断としてはカトリック系の方で出産することにした。ここはアメリカ軍関係など外国人の患者がとても多く、”ほぼ全員”英語ができる、看護婦が親切、駐車スペースがある、などのメリットがあるからだ。

生まれる間際になると、果たして産婦人科か病院か、どっちへ行けばいいのか!?と悩むことになる。普段検査に行くのは産婦人科だけれども、そこで産気づいてしまってはまた移動の手間とリスクが発生することになる。また、出産は夜や明け方になることが多いから、産婦人科は開いていない。このあたりも自己判断になる。

妊婦はただでさえもいろいろと不安があるなかでこの制度はどうかと思うけど、それだけ自己責任でやってくれということなのだ。

次回は、”生む場所”、つまり病院についてです!

ドイツで出産する(1): なぜドイツなのか?

ドイツに住んで通算4年半になる。ドイツでいまだにいろいろ「初体験」が多い中で、強烈な初体験をした。それは、「ドイツで産む」ということだ。

もちろん、生んだのは俺自身じゃなくて奥さんであるが、妊娠・出産・(退院までの)産後という波乱に富んだ時期をドイツという国で体験したというのは、きっと何かの縁なのだろう。

今回はシリーズで思うところを書いてみたいが、まずは、ドイツで生んだ理由について・・・

妊娠は10ヶ月に及ぶ体内の胎児生育の時期であり、それに伴い女性はホルモン変化など様々なことを経験する。

安定期に入るまでの妊娠初期は、食べ物の嗜好が急に変わり、匂いに敏感になり、また、体調もすぐれないのが通例である。自分で料理しようにも、匂いに耐えられないので厳しい。

俺たちがドイツにいて一番つらかったのは、この妊娠初期であった。普段は和洋中何でも食べるグルメのAちゃんだが、この時期は食べられるものも限られ、なるべく幼少期に口にしたものが食べたくなった。料理上手な夫でも持っていれば話は別なのであろうが、台湾の通常の食事をドイツの外食で探すことは不可能に近いからだ。

ドイツで手に入る中では、タイ・ベトナム・和食・中華などのアジア料理は割に味が近いものであるが、味付や料理としての完成度はアジアの本場に比較すべくもない。それならと、幼少期にも時折食べていたハンバーガーなどにも挑戦してみるが、食のバラエティーも必要なので、食べられるものの数がどんどん減っていった

結局、早めに台湾に帰って静養し、安定期にまたドイツに戻るという選択肢を取った。台湾に帰るとやはり食事が口に合うようで元気になってきたので、これは正解だったのだろう。

周りにいた、ほぼ同時期に妊娠していた台湾女性や日本女性たちも、この時期はほとんど帰国しているから、食事の問題は共通のようだ。安定期に入ると食事の問題は少なくなるが、大変な時期には慣れた環境がいいことから、一旦帰るとその後出産まで祖国にいる女性の方が大半である。

俺たちはやはり夫婦一緒に入れる環境で出産を迎えたかったので、Aちゃんにはその後ドイツに戻ってきてもらった。

”ドイツで出産する”という選択肢は、実はかなり安心できるものである。

まず、ドイツは医療水準が高い。日本も昔はドイツから医学を学んだものであり、いまだに医学用語はドイツ語が中心である。特にハイデルベルクは大学町であり、中東からのオイル長者など海外の富豪も手術・治療のため入院するほどであり、レベルはトップクラスである。

第二に、ドイツ人は勤勉である。言ったこと、約束したことは必ずやってくれるし、何度でもいやな顔ひとつせず教えてくれる。縦横の人の連携もスムーズだ。間違いや勘違いは非常に少ないし、何度も説明する必要もない。

特に医療機関に勤めている人のプロ精神の強さには感銘させられることがある。医者・看護婦・事務員に至るまで皆自信と責任感を持って働いており、しかも誠意ある対応をしてくれる。日本によくいるような、自信なさげで謝ることしかできず、何でも上に伺いを立てるようないらつく対応は、ここではありえない。

第三に、ドイツ人は清潔好きである。個人宅、ホテル、病院、会社など、どこも丁寧かつ頻繁に清掃されている。奥さんが入院した病院では、病室に毎朝2-3名の清掃員が来て、テーブルなど調度品も全部よけて拭き掃除をしてくれた

第四に、保険制度が整っている。日本や台湾の制度では”病気”と診断されなくてはカバーされないような通常の出産関連費用が保険でちゃんと支払われる。特にプライベート保険の場合には、待遇がよくやカバー範囲も広いし、100%カバーであるため自己出費は例外的である。

第五に、待ち時間が少ない。アポ入れができ、その時間に病院や医院に行けば、待っても10-15分程度である。検査間で待つ時間も10分以上は稀である。日本や台湾のように、朝早く整理券を引きに行き、人ごみの中で何時間も待つようなことはない。妊娠のようなデリケートなケースには、とても大事なことである。

最後に、産後のケアの制度がしっかりしている。また後で触れるが、助産婦(といっても産後中心)の制度が保険でカバーされており、産後1ヶ月ほど毎日~数日に一度、自宅でヘルプを受けられる。

俺たちの場合は夏の盛りの出産になったので、暑苦しい台湾よりも涼しいドイツでの出産の方が体への負担も少ない。

ただ、ドイツでの出産に唯一欠かせない条件がある。それは家族の出張サポートだ。特に出産前後の時期を、誰のサポートも受けずに過ごすというのはかなりリスキーであり、この時期に最低1ヶ月は誰かがドイツに来てもらえることが前提になる。

うちの場合にはAちゃんのお母さんやお姉さんが来てくれているので、とても助かっているが、誰も都合がつかないためにドイツでの出産をあきらめている女性も友人に数名いる

次回は、ドイツの妊娠・出産前時期のケアについて書いてみたい。

欧州の地政学的変化

ギリシャ金融危機をより”広く”考えると、今日の欧州の地政学(ジェオ・ポリティクス)的な大きな変化が見えてくる。

ギリシャ危機で実際に何が起こっているのか? という疑問に関する回答は簡単。”送金”である。

ユーロ圏各国の財務省からフランクフルトの欧州中央銀行へ、そこからギリシャ財務省へ、そして債権者へとカネが流れている。それぞれの送金明細も探せばちゃんとあるらしく、経緯を事細かに道している記事も出ている

そして、この”送金”は既に何度も行われいる。このまま行けば、ギリシャ国債の債権者が全て欧州中央銀行になってしまうまで、まだまだ続くものと思われる。

”カネの出所”の大半はユーロ圏の大国であり、国民の税金ないしそれを担保に市場で調達しているカネだ。

格付や債務調達金利の推移からみて危ないと言われている、ポルトガル・スペイン・イタリアがギリシャ並に落ち込めば、また同様の”送金”が行われるのだろう。

台所の苦しい政府による、公務員賃金や補助金カットなどに反対する大規模デモは、ギリシャだけではなくスペインなどでも起きている。こうなったのは自分たちのせいじゃないと信じているからだ。

ドイツなど”カネの出し手”側の国民感情もかなり悪化している

単一通貨ユーロに対する信任が内部から揺らいでいる今、ユーロの貨幣価値自体も下がってきている。

一方で、EU新規加盟国の”東欧”であるポーランドやチェコは、購買力では西欧とまだ大きく差がありながらも、”プロジェクト欧州”への政府・国民の信頼は格段に高まってきている。ポーランドでは国民の83%が欧州シンパである。

6月には、ポーランドの大統領がベルリンのフンボルト大学で自身に満ちた講演を行い、欧州疲れしたドイツ人に「欧州思想の基礎」をレクチャーするという、面白い現象すら起きている。

EUでは複雑な補助金制度があるが、要は、貧しい地域・国を豊かな国が援助するという構図である。

5年位前までは、(農業分野以外では)資金の受け取り先はポーランドを中心とする東欧であり、だから東欧のEU加盟は失敗だったという論調も多かった。

しかし今では、経済同盟EUではなく通貨同盟ユーロという主体の違いこそあれ、豊かな西欧中心部からのカネの流れは明らかに東西ではなく南北であり、各国民の感情形成も南北のラインがより重要になってきている。

一方、東欧は着実に力をつけて欧州経済へ完全に組み込まれてきている。これまで欧州で二級市民扱いされてきた国民も自信がついてきており、東欧で物流や製造の欧州統括機能を司る会社も多く出てきている。

ベルリンの壁が崩壊して22年。40年間の冷戦による東西分断が払拭されるのに半分の期間しか要しなかったと解釈すれば、時の流れが如何に加速しているかということだろう。

世界で吹き荒れる金融危機が、実態経済のみならず「国民心理の地政学」にどういう影響を与えるのか? これからも注目していきたい。

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