ドイツで出産する(1): なぜドイツなのか?
ドイツに住んで通算4年半になる。ドイツでいまだにいろいろ「初体験」が多い中で、強烈な初体験をした。それは、「ドイツで産む」ということだ。
もちろん、生んだのは俺自身じゃなくて奥さんであるが、妊娠・出産・(退院までの)産後という波乱に富んだ時期をドイツという国で体験したというのは、きっと何かの縁なのだろう。
今回はシリーズで思うところを書いてみたいが、まずは、ドイツで生んだ理由について・・・
妊娠は10ヶ月に及ぶ体内の胎児生育の時期であり、それに伴い女性はホルモン変化など様々なことを経験する。
安定期に入るまでの妊娠初期は、食べ物の嗜好が急に変わり、匂いに敏感になり、また、体調もすぐれないのが通例である。自分で料理しようにも、匂いに耐えられないので厳しい。
俺たちがドイツにいて一番つらかったのは、この妊娠初期であった。普段は和洋中何でも食べるグルメのAちゃんだが、この時期は食べられるものも限られ、なるべく幼少期に口にしたものが食べたくなった。料理上手な夫でも持っていれば話は別なのであろうが、台湾の通常の食事をドイツの外食で探すことは不可能に近いからだ。
ドイツで手に入る中では、タイ・ベトナム・和食・中華などのアジア料理は割に味が近いものであるが、味付や料理としての完成度はアジアの本場に比較すべくもない。それならと、幼少期にも時折食べていたハンバーガーなどにも挑戦してみるが、食のバラエティーも必要なので、食べられるものの数がどんどん減っていった。
結局、早めに台湾に帰って静養し、安定期にまたドイツに戻るという選択肢を取った。台湾に帰るとやはり食事が口に合うようで元気になってきたので、これは正解だったのだろう。
周りにいた、ほぼ同時期に妊娠していた台湾女性や日本女性たちも、この時期はほとんど帰国しているから、食事の問題は共通のようだ。安定期に入ると食事の問題は少なくなるが、大変な時期には慣れた環境がいいことから、一旦帰るとその後出産まで祖国にいる女性の方が大半である。
俺たちはやはり夫婦一緒に入れる環境で出産を迎えたかったので、Aちゃんにはその後ドイツに戻ってきてもらった。
”ドイツで出産する”という選択肢は、実はかなり安心できるものである。
まず、ドイツは医療水準が高い。日本も昔はドイツから医学を学んだものであり、いまだに医学用語はドイツ語が中心である。特にハイデルベルクは大学町であり、中東からのオイル長者など海外の富豪も手術・治療のため入院するほどであり、レベルはトップクラスである。
第二に、ドイツ人は勤勉である。言ったこと、約束したことは必ずやってくれるし、何度でもいやな顔ひとつせず教えてくれる。縦横の人の連携もスムーズだ。間違いや勘違いは非常に少ないし、何度も説明する必要もない。
特に医療機関に勤めている人のプロ精神の強さには感銘させられることがある。医者・看護婦・事務員に至るまで皆自信と責任感を持って働いており、しかも誠意ある対応をしてくれる。日本によくいるような、自信なさげで謝ることしかできず、何でも上に伺いを立てるようないらつく対応は、ここではありえない。
第三に、ドイツ人は清潔好きである。個人宅、ホテル、病院、会社など、どこも丁寧かつ頻繁に清掃されている。奥さんが入院した病院では、病室に毎朝2-3名の清掃員が来て、テーブルなど調度品も全部よけて拭き掃除をしてくれた。
第四に、保険制度が整っている。日本や台湾の制度では”病気”と診断されなくてはカバーされないような通常の出産関連費用が保険でちゃんと支払われる。特にプライベート保険の場合には、待遇がよくやカバー範囲も広いし、100%カバーであるため自己出費は例外的である。
第五に、待ち時間が少ない。アポ入れができ、その時間に病院や医院に行けば、待っても10-15分程度である。検査間で待つ時間も10分以上は稀である。日本や台湾のように、朝早く整理券を引きに行き、人ごみの中で何時間も待つようなことはない。妊娠のようなデリケートなケースには、とても大事なことである。
最後に、産後のケアの制度がしっかりしている。また後で触れるが、助産婦(といっても産後中心)の制度が保険でカバーされており、産後1ヶ月ほど毎日~数日に一度、自宅でヘルプを受けられる。
俺たちの場合は夏の盛りの出産になったので、暑苦しい台湾よりも涼しいドイツでの出産の方が体への負担も少ない。
ただ、ドイツでの出産に唯一欠かせない条件がある。それは家族の出張サポートだ。特に出産前後の時期を、誰のサポートも受けずに過ごすというのはかなりリスキーであり、この時期に最低1ヶ月は誰かがドイツに来てもらえることが前提になる。
うちの場合にはAちゃんのお母さんやお姉さんが来てくれているので、とても助かっているが、誰も都合がつかないためにドイツでの出産をあきらめている女性も友人に数名いる。
次回は、ドイツの妊娠・出産前時期のケアについて書いてみたい。
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コメント
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こんちゃん、長女ご誕生おめでとうございます!美女二人に囲まれて幸せいっぱいではないでしょうか?すくすくと健康に育つことをお祈りしてます
投稿: けいこ | 2011年10月31日 (月) 05時29分