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超高価な暖房用燃料

今週の2日間、東ドイツの中都市マグデブルクの暖房は、豚インフルエンザのワクチンの焼却熱で賄われるという。この町にある大規模焼却施設がドイツ中で余ったワクチンを集めて焼却し、熱に転換するからだ。これ以上に高額の“燃料”は、おそらくないであろう。

2009年に発生した豚インフルエンザではドイツの各州が計5000万箱を注文したが、実際に納品されたのは3400万箱。そのうち余っているのは、なんと2870万箱であるから、要は80%以上が未使用だった。これによる政府の損失は2.3億ユーロ(=250億円)

ワクチンの保存期限が来たので処分するしかなくなったのだが、処分場の競争入札の結果、14,000ユーロ(=150万円)の最低価格でマグデブルクの焼却施設が“落札”したという。ワクチンや容器は生炭程度の熱量が出て家庭ゴミより効率が高いので、処分場にとっては「歓迎したい」ゴミだとのこと。実にドイツらしい、合理的な手続である。

製薬会社は大もうけしたのであろうが、ドイツ州政府にとっては莫大な損失になってしまった。健康保険は実際に使用された分しか払わないから、残りは州、すなわちドイツ社会全体の損失になる。

なぜこのようになってしまったのか? 州が購入しすぎた理由としては、まず豚インフルエンザの規模が予想不可能であったことがある。政府としては“万一の場合を考えて”多めに注文しておくことを選択するしかなかった。

しかも、当初は1人あたり2回注射しないと効かないとされていたのに、後になって実は1回の注射で十分であるとの判定に変わったらしい。それに、多くの人は副作用を憂慮してワクチン接種をしなかった。

豚インフルエンザのワクチンを巡っては、先進各国とも「注文した分の大半が在庫」という状態であったことが知られているが、2年後には「在庫処分」の日がやってくる。

ワクチンは有効期限が切れたら処分が必要であり、また将来社会的に同じ疫病が流行したとしても、新規に注文するしかない。疫病が少しでも違うタイプであれば、もちろん別のワクチンが必要になる。しかも、薬の成分や効能を知り尽くしているのは製薬会社であり、政府側にはワクチンという“ブラックボックス”の中身はわからない。現在のシステムでは製薬会社が圧倒的に有利な立場にある。

ワクチンの副作用などは、当然、実際の接種が始まってから初めて徐々に明らかになってくる。今回もかなりの副作用が出ているという情報が多かったので、まともな神経の人なら接種は拒否したと思うし、もちろん俺も絶対にこんないかがわしいワクチンを接種する気はなかった

しかしワクチン製造には時間がかかるので、政府は副作用の結果がわかる前に発注しなくてはいけない。しかも製薬会社は、まるでアップル社の新製品リリースの時のように、“製造が間に合わない!品薄だ!早い者勝ちだ!”という雰囲気を徹底的にかもし出す作戦に出て人心を煽るものだから、なおさらである。さらに、製薬業界の政界でのロビー活動勢力は強大である。

このワクチンに関する“構造的に不可避な社会損失”は、現代社会の闇を表しているように思えてならない・・・

日本人の美学

うちの娘ももう生後3ヵ月になるが、新生児だった頃に比べて寝かせるのがだんだん難しくなってきた。一回に寝る時間は長いのだが、それだけに寝つくまでのハードルが高くなっている。俺のやり方はよくないようでどうしても泣き止んでくれないので、一日で一番大事な夜に娘を寝かせつけるのは、Aちゃんの専門稼業となっている。

俺の勉強が足りなかったせいもあるのだが、疲れたら寝て休むと回復して再び元気になるという基本的なことを、赤ちゃんは知らないらしい。だから疲れると気分を害して泣き始める。泣くと疲れるからさらに機嫌が悪くなり、大声で泣きじゃくる。寝かせるには赤ちゃんが好む体のポジションやあやしかた、音楽や光加減など微妙な感覚を知り、しかもその日のモードに合わせて臨機応変に応対する必要があるのだ。世の中のお母さんは大変だとつくづく思う 笑

このような経験を何百回も繰り返すうちに、ある年齢になると「そうか、疲れたら寝ればいいんだ」ということがわかってくるらしい

もちろん大人ならそんなこと、誰でも知っている・・・はずだ。しかし実際はどうだろう? 疲れても泣き続ける娘を見ていて思うのは、自分の肉体的限界をあまり認識していない人が多いように思われる事実である。それは何故か外人よりも日本人に多い。

会社のプロジェクトなどが忙しくなると、ビジネス界では睡眠を削って仕事しなくてはいけないこともある。そのような時、「とことん限界まで頑張って」ある瞬間ぶっ倒れる人が、日本人にはなぜか多い

冷静に考えれば、業務がどんなにきつくても、いきなり自分が途中で倒れて病院に運ばれ長期間稼動できなくなるよりは、多少手を抜いてでも継続的に最後まで一貫してやり遂げるほうが、関係者への迷惑度はよっぽど少ないことは自明である。健康管理というのは自己責任であり、誰も担保してくれないからだ。自己責任主義が徹底している欧州の管理職では、わかっていてそういう無茶な行為をする人は極めて少ない。そんなことをしたら自分も周囲も損するからだ。

「突然バタン派」が日本人に多い理由は、社会構造があるように思う。会社では、夜遅くまで社内に残っていることや週末にメールを出すことが「評価」される。もちろん人事規定では早く帰宅することを表向き「推進」しているが、実態は逆である。俺は東京で某金融機関にいたとき、この「考え方」があまりに馬鹿馬鹿しいので、時々6時に会社にかばんを置きパソコンをつけっぱなしで友人と飲みに行き11時過ぎに会社に戻ってきて、あらかじめ用意しておいたつまらないメールを1-2本打ってからパソコンを閉じて帰宅していたものだ。

この論点を更に突き詰めると、日本人の精神論に辿り着く。“生きていてこそなんぼ“という人生本来の根本よりも、「あるミッション(=使命)のために堂々と果てること」が社会的に美化・評価される。そのためには他の事を一切考えず(=お上に任せ)使命だけのためにひた走り、最後はカミカゼのごとく果てるのがよしということだ。

為政者のために都合のよい精神教育が徹底していてた戦前戦中は、日本人は精神的に今よりずっと強かったのだと思う。この精神教育は日本人のマインドにぴったり来るからだ。お上の権勢ががたつき上下の社会系統が崩れつつある現在、世界で通用する日本人が少なくなっているのは、彼らが「拠り所を失っている」からであろう

日本人の志向を考えると、日本という国を再興するためには、天皇などわかりやすい人を錦の旗に、誰か強い人が出てきてリーダーシップを発揮し、「いいから俺についてこい」とドンドン仕組みを作ってグイグイ引っ張ればいいだけなのだ。

まあ、実際いつになることやら~

ドイツとポーランドの対称的な雇用関係

ドイツ人とポーランド人の雇用に対する考え方は180度異なる。例外がいろいろあることは承知の上で、あえて定型化してみる。

ドイツ人は何よりも安定を好み、安定した先の見える状況で安心を得られる民族である。生活の銭の中心は会社雇用である。彼らにとって会社とは、安定的に規模や利益を少しずつ拡大し少しずつ給料も上がりながら、長年安心を得られる「はず」の場所だ。現実がそれと異なってきても、彼らの“会社のあるべき姿”は、いささかも揺るがない

ドイツ人は日本人に比べると、生涯の転職回数は平均して確かに多い。しかしそれは営業や経理など「転職バリュー」のある職種だけであり、また、大都会の勤務者中心であり、田舎の製造など産業系やカスタマーサービスには勤続何十年選手がゴロゴロしている

50人以上の会社には従業員全体を代表する組合機関があり、経営側と執拗に交渉する。賃上を要求するのは理解できるが、ドイツの場合は「雇用保証」と「拠点保証」が必ずセットで要求される。これを経営が飲んでしまうと、数年間解雇ができなくなり、また、事業拠点の閉鎖ができなくなる。

最近エアバスのドイツ製造拠点は2020年までの雇用保証要求を受け入れた8年間も解雇されない地位を法的に確保するという要求もすごいが、これを実際受け入れさせてしまうほどに労働者は強いということだ。

一方、ポーランド人は歴史的・社会的に常に変化を経験してきた民族である。基本的に、長期的ビジョンなどあてにならないし、失敗しても動じずまた挑戦する。企業家だけではなく一般従業員でも、独立独歩の精神が強い。従業員の解雇も法律上実に簡単であり、採用面接をしたら翌週には出社するのが通常である。会社形態はおのずと労使協調型ではなくトップ独裁型が多い。

従業員の会社への忠誠心は概して低く、会社側も本当のキーパーソン以外は簡単に入れ替え可能と考えている。本当に不可欠な幹部人材(20歳代も多い)だけは年齢に関係なくどんどん昇給昇格させ、その他大勢の入れ替わる安月給の「平社員」とは明確な差を設けている。

新人の採用はトップだけの判断でどんどん行い、また実に多くの新人が数週間の短期間で辞めていく。面白いのは、辞める新人は典型的には突然連絡なしに出社しなくなることだ。辞表も出さない。数日後会社側がその人にレターを出し、「契約違反で出社しないので解雇します。」と通告して、それでおしまいである。勤務した日数分も含めて給与はゼロ。そんな社員がいたという記録すら残らない。ポーランドでは転職の際に前の勤め先に信用照会がされることがないため、社員側も会社側も実にドライにさっぱり別れる

このように雇用慣習の全く異なる両国のチームが二人三脚で顧客商売をこなすのは並大抵のことではないが、それだけに達成感も大きいと言える。

ドイツの雇用制度と事業再編

今年の8月初旬、ドイツ中西部を基盤とするドイツ最大の電力・ガス会社E.ONが世界の11,000人のリストラを発表して大きく報道されたことがある。うち6500人はドイツ勤務者が対象だ。

これまで安定雇用主の象徴であったE.ONの社員は、一瞬にして不安定な状態に突き落とされた。「銀行の住宅ローンを延長しようとしたら会社名を理由に拒否された」などの例もあるらしい。

ロシア経由のガス供給契約などの関係で供給コストが大幅に増加しビジネスモデル変更を余儀なくされたなどと報道されているが、もともと利益の大きいはずの独占系エネルギー業界最大手がそれだけが理由でここまでのリストラが必要とはちょっと考えられない。きっと他にも、欧州マーケットの将来性自体に密接に関連するもっと深い構造的な理由があるのではと察する。

通貨危機が続き固定費が高い欧州で大規模リストラを“突然”実行するのは、欧州系・外資系を問わず今やトレンドになりつつある。国民の安定志向が極めて強いドイツでは、この動きは社会的にも大きな衝撃なのだ。

E.ONはリストラに際し、人員削減の大枠だけを発表したが、具体的な時期や部署などのプランはいまだに発表していない。各部署がいまだに「作業中」ということになっている。しかし、E.ONリストラ発表から3ヶ月を経過してもまだ詳細を発表しないのはなぜか

それはひとえに、労働組合対策である。ドイツでは労働者の権利が非常に守られており、労働者は全員でひとつの団体として会社側と徹底的に交渉する。その結果、時間ばかり取られて妥協を迫られ、コストと人員の削減はドンドン骨抜きになっていく。

労働者側の交渉余地を以下に最小限に留めるかが、ドイツのリストラでは何よりもキーになる。人員削減のプランが経営から発表されないと、それに対する対抗策も彼らは打ち出せないからだ。

リストラの全体を発表したまま何ヶ月も放置すると、社内の雰囲気は当然乱れ、社員の士気は落ち、転職者が出たり、会社としての利益体質自体も弱体化していく。これは実際に起きていることだが、それを承知の上でそのような戦略を取らざるを得ないほど、ドイツの労働法の問題は大きいと言える。

マスコミはそのような経営陣の態度を叩くので、E.ON経営陣は最近労働者と交渉テーブルにつかされている。しかしこれも計算のうちであり、交渉テーブルにつくまでの時間をなるべき稼ぎ、その後も引き延ばし続けているうちに時間切れとなり、それから突然詳細を発表して実行する算段なのだろう。

次回はドイツと全く異なる、ポーランドの雇用事情に触れてみたい。

ドイツは経済危機なのか!?

欧州の通貨危機が日ごとに緊迫感を増す中、利益目標に全然到達できなかった会社のリストラが急激に増加している。

アジアでは自然災害、欧州では経済危機、アメリカでは両方が同時に襲ってきているご時勢であるが、よくぞこれだけ躍動感ある時代に生を受けたものだ。

欧州のリストラに話を戻そう。野村(欧州部門)やクレディスイスなどの金融系大手の4ケタ台の人員削減が大きく報道されているが、もともとボラティリティーの高い金融業界のリストラは何も目新しいことではない。むしろトレンドとして注目すべきなのは産業系のリストラである。

興味深いのは、ユーロ圏金融ワールドでこれだけ信用伸縮が続いているというのに、実体経済への影響はまだまだ軽微であり、むしろ今から本格化するということだ。もちろん地域により差は大きい。GDPが対前年比10%以上下がっているギリシャを筆頭に、買掛金回収が実際に遅れてきているスペインなどは「進んでいる」。

これに対しドイツでは、表面的に見ると状況は危機どころか改善し続けているようにさえ見える。ハイデルベルクのあるバーデン・ヴュルテンベルク州の失業率は史上最低の3%台水準であり、季節修正済の雇用データは10月でさえも改善を続けているのだ。

社会の雰囲気は平穏そのもの。車の販売数も増えており、VW PassatA4などのビジネス車の標準モデルで新車の納期待ちが4-5ヶ月となっており、Europcarなどレンタカー大手もドイツ市場だけのために数千大規模で新車を購入している。

Occupy Wallstreetを真似てフランクフルトやベルリンでデモをしている若者でさえも、暴動など全くなく、あまりの品行のよさに、デモ行進で通る街道に面した商店主が「おかげで売上が増えた」と喜んでいるほどである。

しかし、経済危機はドイツでも周回遅れながら確実に始まっている。そして、始まったばかりながら進行はウイルスのように実にすばやく浸透しているように感じる。その最大の証拠は、中~大会社の利益幅が急激に薄くなってきており、耐え切れない企業がリストラに踏み切っていることだ。そして、雇用の受け皿になる“成長企業”はほとんど出てこない。

失業者数は今後増加するだろうが、もともとの経済基盤が強く失業率も低水準なので、今後しばらくは社会的に持ちこたえられるものと思われる

ドイツのリストラの今については、次回もう少し詳しく触れてみようと思う。

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