ドイツの雇用制度と事業再編
今年の8月初旬、ドイツ中西部を基盤とするドイツ最大の電力・ガス会社E.ONが世界の11,000人のリストラを発表して大きく報道されたことがある。うち6500人はドイツ勤務者が対象だ。
これまで安定雇用主の象徴であったE.ONの社員は、一瞬にして不安定な状態に突き落とされた。「銀行の住宅ローンを延長しようとしたら会社名を理由に拒否された」などの例もあるらしい。
ロシア経由のガス供給契約などの関係で供給コストが大幅に増加しビジネスモデル変更を余儀なくされたなどと報道されているが、もともと利益の大きいはずの独占系エネルギー業界最大手がそれだけが理由でここまでのリストラが必要とはちょっと考えられない。きっと他にも、欧州マーケットの将来性自体に密接に関連するもっと深い構造的な理由があるのではと察する。
通貨危機が続き固定費が高い欧州で大規模リストラを“突然”実行するのは、欧州系・外資系を問わず今やトレンドになりつつある。国民の安定志向が極めて強いドイツでは、この動きは社会的にも大きな衝撃なのだ。
E.ONはリストラに際し、人員削減の大枠だけを発表したが、具体的な時期や部署などのプランはいまだに発表していない。各部署がいまだに「作業中」ということになっている。しかし、E.ONがリストラ発表から3ヶ月を経過してもまだ詳細を発表しないのはなぜか?
それはひとえに、労働組合対策である。ドイツでは労働者の権利が非常に守られており、労働者は全員でひとつの団体として会社側と徹底的に交渉する。その結果、時間ばかり取られて妥協を迫られ、コストと人員の削減はドンドン骨抜きになっていく。
労働者側の交渉余地を以下に最小限に留めるかが、ドイツのリストラでは何よりもキーになる。人員削減のプランが経営から発表されないと、それに対する対抗策も彼らは打ち出せないからだ。
リストラの全体を発表したまま何ヶ月も放置すると、社内の雰囲気は当然乱れ、社員の士気は落ち、転職者が出たり、会社としての利益体質自体も弱体化していく。これは実際に起きていることだが、それを承知の上でそのような戦略を取らざるを得ないほど、ドイツの労働法の問題は大きいと言える。
マスコミはそのような経営陣の態度を叩くので、E.ON経営陣は最近労働者と交渉テーブルにつかされている。しかしこれも計算のうちであり、交渉テーブルにつくまでの時間をなるべき稼ぎ、その後も引き延ばし続けているうちに時間切れとなり、それから突然詳細を発表して実行する算段なのだろう。
次回はドイツと全く異なる、ポーランドの雇用事情に触れてみたい。
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