ドイツとポーランドの対称的な雇用関係
ドイツ人とポーランド人の雇用に対する考え方は180度異なる。例外がいろいろあることは承知の上で、あえて定型化してみる。
ドイツ人は何よりも安定を好み、安定した先の見える状況で安心を得られる民族である。生活の銭の中心は会社雇用である。彼らにとって会社とは、安定的に規模や利益を少しずつ拡大し少しずつ給料も上がりながら、長年安心を得られる「はず」の場所だ。現実がそれと異なってきても、彼らの“会社のあるべき姿”は、いささかも揺るがない。
ドイツ人は日本人に比べると、生涯の転職回数は平均して確かに多い。しかしそれは営業や経理など「転職バリュー」のある職種だけであり、また、大都会の勤務者中心であり、田舎の製造など産業系やカスタマーサービスには勤続何十年選手がゴロゴロしている。
50人以上の会社には従業員全体を代表する組合機関があり、経営側と執拗に交渉する。賃上を要求するのは理解できるが、ドイツの場合は「雇用保証」と「拠点保証」が必ずセットで要求される。これを経営が飲んでしまうと、数年間解雇ができなくなり、また、事業拠点の閉鎖ができなくなる。
最近エアバスのドイツ製造拠点は2020年までの雇用保証要求を受け入れた。8年間も解雇されない地位を法的に確保するという要求もすごいが、これを実際受け入れさせてしまうほどに労働者は強いということだ。
一方、ポーランド人は歴史的・社会的に常に変化を経験してきた民族である。基本的に、長期的ビジョンなどあてにならないし、失敗しても動じずまた挑戦する。企業家だけではなく一般従業員でも、独立独歩の精神が強い。従業員の解雇も法律上実に簡単であり、採用面接をしたら翌週には出社するのが通常である。会社形態はおのずと労使協調型ではなくトップ独裁型が多い。
従業員の会社への忠誠心は概して低く、会社側も本当のキーパーソン以外は簡単に入れ替え可能と考えている。本当に不可欠な幹部人材(20歳代も多い)だけは年齢に関係なくどんどん昇給昇格させ、その他大勢の入れ替わる安月給の「平社員」とは明確な差を設けている。
新人の採用はトップだけの判断でどんどん行い、また実に多くの新人が数週間の短期間で辞めていく。面白いのは、辞める新人は典型的には突然連絡なしに出社しなくなることだ。辞表も出さない。数日後会社側がその人にレターを出し、「契約違反で出社しないので解雇します。」と通告して、それでおしまいである。勤務した日数分も含めて給与はゼロ。そんな社員がいたという記録すら残らない。ポーランドでは転職の際に前の勤め先に信用照会がされることがないため、社員側も会社側も実にドライにさっぱり別れる。
このように雇用慣習の全く異なる両国のチームが二人三脚で顧客商売をこなすのは並大抵のことではないが、それだけに達成感も大きいと言える。
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