草食系思考の海外戦略
野村證券の唯一の外国人エグゼキュティブが突然辞任するというニュースがあった。ホールセール担当の55才のインド系。理由は自分の部署で巨額損失を出し、グループ全体も傾いている中で、全社のリストラのやり方について日本人の他の経営陣と対立したかららしい。
これは野村證券の海外戦略が失敗した(=終わった)象徴のような出来事である。そして、野村の失敗は、日系企業の海外戦略の失敗のお手本みたいなものだ。
野村は「はかない夢を見た」。2008年のリーマンショックのさなかに、米国の人員を倍増し、欧州とアジアのリーマン・ブラザーズの組織を買収した。競合のほとんどが事業縮小に動いているときに、「逆張り」で勝負に出た。野村は、「投資銀行業務を劇的に拡大しグローバルプレーヤーになるために、経験あるできる人材が大量に流出している今が絶好のタイミング」と宣伝した。何とも得意げだったのを覚えている。夢は3年で終わった。
野村のリーマン買収を当時ニュースで見たときには、目が点になり言葉を失ったのを覚えている。こんな馬鹿な決断がマジで信じられなかったし、120%失敗すると思った。当時国内外の報道では半信半疑のコメントが多かったが、「絶対に失敗する」と断言したものはなかったように記憶している。
野村の海外戦略はなぜ失敗したのか? 高コスト構造を先に抱え込んでおいて景気が悪化し、投資銀行部門全体が世界中で縮小し日本本体の利益も縮小する中で、海外の固定コストに耐えられなかったためである。
こう聞くと、「予想外の景気悪化が原因」と思ってしまうが、それは表面的な理由である。それだけでは、俺が「120%失敗する」と最初から確信できた理由にならない。未来の景気の推移など俺にわかるわけがないからだ。
俺から見ると、失敗の深層の理由は明らかである。草食系の経営組織で肉食系の土壌で勝負したから負けたのである。どうもうな犬の集団のボスが猫で務まるわけはない。勝負する前から負けを「直感できない」のが、残念ながら、日本人の頭脳で思考する組織なのだ。
野村はこう考えた。「グローバルに戦うには、グローバルな人材が必要。それが今、手に入る。資金もある。だから思い切って彼らを取り込めば、勝てるはず」。
このまっとうそうな考えのどこが間違っているのだろう? 投資銀行業務は海千山千の、極論すると騙し合いの世界、つまり肉食系の代表のようなものである。競合のトッププレーヤーはつわものばかりで、だからこそ欧米人やインド人が主流。彼らをアメとムチでうまく操って利益という結果を出すには、彼ら以上に長けて利口で狡賢い経営が必要なのだ。
日本企業は、経営だけはそのままでスタッフを国際化すれば勝てると思っている。しかし真実は逆であり、スタッフが日本人ばかりでも経営(=トップ)が国際化すれば勝てる、正確には少なくとも勝てる可能性が出るのだと思う。日産自動車がいい例だ。
野村は経営が日本的、つまり草食系なままで世界中で外人をいっぱい採用し、国際化にチャレンジした。本社では遅く合議的な意思決定システムを温存し、「大半が日本人取締役の組織に選択的・段階的に少し外人を入れる」という典型的な方式で、危機が起こると反対した外人をまた締め出し、最後は日本人オンリーの組織に戻って行った。まるで教科書のような失敗例だ。
日本人の組織で「経営の精神面の国際化」を図ることは、非常に困難であると思う。でも、それは必須ではない。自分の精神性を曲げようとしてまで無理をするのはなく、「自然体」でもフィットして勝てそうな事業対象や市場に絞って地道に稼げばいいのにと思うんだけどなあ。
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