ストライキに見るドイツ社会
1ヶ月半くらい前から、ドイツ国鉄で頻繁にストライキが起きていて、まだ続いている。機関士(運転士)の組合のうち一つが、30%以上の賃上げを求めて強硬姿勢を取っているためだ。
先日もストがあったので、俺自身も出張の予定を変更しなければならなくなったし、全国一斉にやるので、大きな影響が出ている。
まあ、この組合員たちには10年間賃上げがなかったらしいが、それでも30%の賃上要求というのは、明らかに行き過ぎだと思う。これを許したら、いろんな産業のいろんな組合が同じことを要求してきて、大混乱とインフレを引き起こすことになりかねない。
でも、もともと給料が低いらしいということで、ストライキをする(続ける)こと自体には、意外にもドイツ人は寛容で、全体的には彼らを応援しているっぽい雰囲気さえ感じられる。
面白いのは、ストとはいえ、実に整然としていること。
経営との話し合いが決裂し、ストライキを数日後に行うと決まると、労使が話し合って臨時ダイヤ(Notfahrplan)を組成する。それが何日の何時に発表されるかも、ちゃんと事前に発表される。
その臨時ダイヤでは、ストを行う路線でも、数本に一本くらいの割合では電車が走るように組まれているので、よほどのことがない限り、まったく移動できなくなるということはない。
フランスやベルギーのように、ひとつのストが勃発すると「便乗して」他の地域・組合・産業に飛び火したり、混乱したりするようなことはなく、 みんな不便を我慢して静かに応援しながら、成り行きを見守っているのだ。
なぜ国民が不満に思わないのかだけど、それはどうも、企業業績が一般に絶好調なのに賃金に十分反映されていないと思っている人が多いからみたい。こんな絵に描いたような「労働者的な考え」を、ドイツ人のマジョリティーはいまだに持っているのだ。
こんなの俺から見ると、安定経済に慣れた国民の、単なる甘えにしか見えない。そんなの、これから先の世の中でいつまでも通用するはずはないから。ドイツ人の危機感と現実的対応策の認識は、正直かなり甘い。
ドイツの硬直した労働法のもとでは、賃金は上げることはできても下げることは難しい。しかも、10年以上続いた世界経済効率性の拡大基調で向上した企業業績も、今後の継続的な維持が可能かどうかはわからない。余剰資金を更なる投資戦略に向けないと、テンポが速くなるグローバル経済の中で、企業の生き残りすら難しい。
だから、業績が良くなったら、どうせ辞めないと思われる社員の賃金でも親切に上げてやり、「労働の成果を広く分配する」なんて贅沢な経営判断は、もう絶対にできない。完全に昔話だと思う。賃金を上げるとしたら、それは「そうしないと他に取られる」ようなスキルのある人材に対してだけだ。
機関士の仕事は、たぶん10年以上前から労働生産性が変わっていない。しかもその間彼らは、日用品が安い中国産などに置き換わるなどで、間接的にグローバル化の恩恵を受けている。ドイツの鉄道事業が補助金なしに儲かるわけでもない。それなのに、30%の賃上げを要求するというのは、少なくとも「経済合理性」はない。
もちろん、ドイツ国鉄の機関士が今一斉に辞めたらすぐの補充は難しいし、ドイツ語という壁もあるので、(スキルのある)外国人がすぐに代わりにできる仕事でもない。つまり、グローバル化の脅威がまだ及んでいない仕事だけど、いつまでもそうはいかないだろう。
つまり、彼らにとっては今がラストチャンスかもしれないから、賃上げを今アグレッシブに要求するのは、もしかしたら正解なのかもしれない。
さて、結末はいかに。。。
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